『L-エル-』の奇跡と共にあった1年
2016/02/27

第五章『L-エル-』ホールツアー

第四章で振り返ったライヴハウスツアーに引き続き、第五章では『L-エル-』のホールツアーを振り返ってみたいと思う。
 アルバム『L-エル-』を、ライヴという形に落とし込んだ最初のツアーであったホールツアー。yasuは、『L-エル-』をどのようにライヴで表現していきたいと思ったのだろう?『L-エル-』というライヴが出来上がっていくまでの話を訊いた。

    

——今回の『L-エル-』のツアーは、ホールツアーが最初だったけど、アルバムをどういう形でライヴに落とし込んでいこうと思っていたの?
「ライヴに関しては毎回、いろいろと話し合って決めていってる感じなんやけどね」

——今回も?
「そう。今回も、自分がやりたいと思っているイメージをライヴの制作スタッフに伝えるところから始まっていったね」

——今回『L-エル-』はホール、アリーナ、そしてファンクラブ限定ライブのライヴハウスでのライヴでもあったわけだけど、実際にまったく広さも動員も違う場所で、同じアルバムを魅せていくツアーというのをやってみてどう感じた?
「基本全部気持ちとしては一緒の気持ちで向き合っているし、そこにかける気持ちはどれも同じやってんけど、今回は1枚のアルバムを1年かけてじっくりと魅せていけたツアーであったってとこが、いつもと大きく違ったとこだったよね」

——実際問題キャパや場所の広さが違うから、それぞれに魅せ方は違ったと思うけど、こんなに長いスパンでアルバムのツアーをすることってなかったからね。
「そう。初めてやったからね、1年をかけてアルバムツアーをするってこと自体が。いつもは、やっと曲が育ってきたなってところでツアーが終わってしまうことが多いからね。そこが大きく違ったとこかな」

——いつもツアーが終わったころにアルバムが完成するっていうイメージって言ってたよね。
「そうそう。アルバム作って、ツアーをやって初めて完成する感覚やからね。そういう意味では、今回は長く曲を育てられたのは良かったなって思うね」

——アルバム作る時って、作ってる段階でライヴのこと考えてたりするの?
「そこまで考えてないよ。もちろん、ある程度は考えてんねんで。“ライヴでこうなったらええな”とか。そうなったらいいなとは思いながら作ってはいるんやけど、そこまでライヴを想定してまで作ってないから、実際やってみたら、めっちゃしんどい! とかあるし(笑)」

——思い描いていた通りではないというか、ちょっと違ったなってこととかあったり?
「あるある。違うっていうのも、間違いっていうんじゃなく、ノリが想像と違ったっていう意味でね。で、だんだんライヴでやっていくうちに、自分もそのノリを掴んでいくって感じが多いね。今回はアルバム自体がすごくコンセプチュアルなモノやったけど、ライヴはストーリーに沿った感じにしようと思ってなかったしね。あんまりコンセプトの押し売りはしたくなかったというか。ライヴはライヴでちゃんと魅せたいと思ってから。頭と中盤に映像が入るから、すごくストーリーに沿った流れに感じたかもしれないけど、演出としたらほんまにそこだけやからね」

——今回のライヴツアーでは、音源にはなかったインストを用いて、上手くインターバルが繋がれていたりもしたよね。
「そうね。セットリストを組んでいく段階で、チューニングが違う楽曲の場合、ギターとベースを持ち替えなければいけないから、流れを止めなくちゃいけなくなったりするんやけど、個人的になるべくなら、そういう曲間も詰めたい方なのね。そこは物理的に避けられないことだから、無理なんやけど」

——中盤に映像を挟んで、yasuくんが奥から出てくるっていう構成になってたりもしたよね。二部の始まりみたいな印象だったけど。
「そうね。ちょっと演出的な感じやったというかね。」

——今回ライヴで使われてた映像は、「INCUBUS」のミュージックビデオの一場面を使ったモノでもあったけど、新たな映像も加わっていたよね。
「そう。あそこで使っていた映像は、ツアー用に作った映像。アルバムが出来上がってすぐのツアーでもあったから、結構いろいろとバタバタで、時間の無い中で固めていった感じやったんやけど、かなり時間かかって、ギリギリまでやってたからね」

——映像の部分では、すごくしっかりとストーリーを感じられて物語の中に入り込めたんだけど、ライヴ自体はいままで以上にアグレッシブだったなって感じたんだよね。yasuくんをはじめ、サポートメンバーも、すごく攻めてるライヴだなって思った。
「そうやね。ライヴ自体はほんまに激しい感じやったと思う。いままでとは環境が違ったから、サポートメンバーのみんなもいろいろと勝手が違って苦労したところもあったと思うけど。だからこそ、みんなが“良くしよう”と思って、必死で頑張ってくれて、全力で向き合ってくれてたライヴやったと思うしね」

——いつもと環境が違ったとは?
「今回は、音源制作もそうなんやけど、音まわりや舞台まわりのスタッフが全部変わったっていうのは大きかったね。自分のやりたいことというか、理想がスタッフに伝わるのに時間がかかった部分もあって。例えば、僕がいつも思っているのは、“照明も一緒に演奏してほしい”っていうところなんやけど、“このイントロにどんな照明をつけるか”っていうことって、感覚的な問題やから、人それぞれやと思うのね」」

——だからこそ難しいところではあるよね。感性の問題でもあるし。
「そう。でも、だからこそ、自分も含めそれぞれがそれぞれの持ち場にちゃんと責任を持って向き合ってほしいなって思うというかね。例えば、アリーナでのライヴのときなんて、距離が遠くなってしまうから、俺が手を挙げる瞬間とか、しっかり照らしてみんなに見えるようなタイミングを外さないとかね。そういう意味でも照明ってすごく大事やと思うからね。新たなスタッフ陣同士、付き合いが短いぶん、その時間を取り戻そうとして頑張ってくれてるのがすごく伝わってきたし。今回のツアーは、本数のわりに期間が長かったから、ライヴ1本1本を研究して分析して、自分でも何回も向き合って反省して、次のライヴに望むことが出来たからね。いままでと勝手が違うところもあったけど、いろんな意味で成長できたんちゃうかな? って思うかな」

——なるほどね。個人的には、アリーナツアーの武道館と、代々木第一体育館の2日目のライヴが最高に良かったなと思ったんだけど。yasuくん的な手応えは?
「あ、ほんまに? ありがとう(笑)。“良かったよ!”って言ってもらえたときのライヴって、何が良かったんやろ? って思っちゃうというかね(笑)。で、“良かったよ!”って言ってもらえへんかった他のライヴは、何が足りなかったんやろ? って思っちゃうっていうね(笑)」

——あははは。たしかに、そこの温度差ってあったりするよね(笑)。“良かったよ!”って言っても、“え? そう?”みたいな温度差はよくあるよね(笑)。足りてないわけじゃないんだけどね。
「うんうん、解る解る。そこ不思議よね(笑)。でもね、こっち的に思うのは、そこは自分の出来云々の問題じゃないんじゃないか? って思うんだよね。自分の中で、“今日は点数高めやったかな?”と思ったところで、見てくれてる側からしたら、そうでもないっていうことが多々あるっていうね。お客さんが“良かった”って言ってくれるライヴが、必ずしも自分にとって点数高めのライヴであり、“良いライヴ”って呼べるモノだったのか? っていったら、そこは噛み合ないことの方が多いっていうね。そこはほんまに不思議(笑)」

——そこはずっと平行線のような気がするけどね(笑)。
「そうね。絶対に100点やった! って思うことってないと思うからね(笑)」

——今、改めて、3月10日の広島を皮切りに始まり、約3ヵ月かけて全国22箇所をまわったホールツアー『Acid Black Cherry 2015 tour L-エル-』を振り返って思うことは?
「月並みではあるけど、一番は客層の広がりを感じたね。男子がすげぇ増えたな、年齢層も広がったなっていうのは、毎回思うことではあるんやけど、今回のツアーは特にそれを強く思ったかもね。ちっちゃい子もいたしね。そういう光景を見てると、純粋に、Acid Black Cherryの音楽を聴いてくれる人が増えたんかなって思いますね。今まではもうちょっとバンドが好きな子たちの音楽というか、バンドが好きな子たちが来てくれてるっていう感じはあったけど、そうじゃない人もいっぱいいるなって感じましたね。これって、バンドをやってる人間からしたら、結構なことやと思うのね」

——そうだろうね。でも、最近のAcid Black Cherryのライヴは一般層も増えてきてるからね。親子連れとかも多いし。
「そうそう。バンドを好きな子たちは頭振ってるけど、そうじゃない人もいっぱいいて混在してるしね。そういうカルチャーのある人と、無い人を両方満足させるというか、納得させるのって、すごく相反するというかね。その両者を満足させるライヴをせなアカンなって思ってたから、そういう部分でも、今まで以上にいろんな意識が高くなったような気がしますね。そういう意味でも、このアルバムっていうのは、いろんな意味で一皮剥けるための作品を作ろうと頑張ったのもあったし、新たなスタッフとも向き合って頑張ったっていうのも含め、いろんな環境が変わった中で、1つ上を目指せたツアーやったんちゃうかなって思いますね」


Writer 武市尚子



【『L-エル-』の奇跡と共にあった1年・第六章『L-エル-』アリーナツアー】へ続く
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