歴史とは語り継がれるもの。そして、唄は唄い継がれるもの。
正しく、忠実に伝えられていくことはとても大切なことではあるが、そもそも、“そのもの”に興味を抱かせるのは、伝えていく者の手腕であると思う。
“所詮カヴァーでしょ”と、高を括る人も多いだろう。たしかに、“在るモノ”を演奏し、唄う、という意味では、オリジナル曲に比べ、唄い手の個性は薄れるのかもしれない。
しかし、である。きっと誰もが、1月25日にリリースされた4枚目のカヴァーアルバム『Recreation 4』の音が流れ出したその瞬間から度肝を抜かれ、ただただ在るモノを唄っただけの、“焼き直し”ではないことを瞬間的に悟るだろう。
今作は、久保田利伸の「流星のサドル」から幕を開けるのだが、“キング・オブ・Jソウル”という称号が付けられたほど、日本人離れした絶対的な歌唱力を誇ったアーティストの曲を唄いこなすには、卓越した歌唱力を要するが故に、まず唄える者が少なく、唄うこと自体を躊躇し、選曲するに至らないであろう。が、しかし。yasuはこの曲をアルバムの1曲目に堂々と置いているのである。
yasu本人も、ファンクやソウルというジャンルを探究してきたルーツを持つアーティストではないが、当時受けた衝撃とリスペクトを持って選曲したからには、とことん“自分流”の「流星のサドル」を作り上げたいと考え、自らの頭の中で鳴っていたメロディックに動きまくるフレーズと、スラップのスリリングなベースプレイの応酬を前面に押出した、Acid Black Cherryの真髄を感じさせるヘヴィロックに、圧巻のロックヴォーカルを絡めたのである。yasu(Acid Black Cherry)の唄う楽曲たちは、オリジナルをも越える存在感と個性で、楽曲を蘇らせていると言っても過言ではない。
今回はその他にも、THE ALFEEの「星空のディスタンス」やAKB48の「フライングゲット」をメタルアレンジで聴かせ、原型をAcid Black Cherry色に塗り替えている。これも、カヴァーアルバムの存在意義のひとつと言えるだろう。
また、これまで切ない恋に生きる女性シンガー曲を多く選曲していることも、yasuの感性が伺える一面でもある。今回もプリンセス・プリンセスの「M」、松任谷由実の「青春のリグレット」、AKB48の「フライングゲット」と、時代の流れと恋愛スタイルの変化を思わせる歌詞を、yasuは見事な表現力で唄い上げている。地元に住む家族や大切な人との距離を埋めるための曲であったとされる絢香の「三日月」は、今作に収録される12曲の中では1番オリジナルに忠実に届けられていると感じたが、それ故に、yasuという唄い手の声の魅力をしっかりと感じることが出来るのである。
激しいサウンドを纏うヘヴィー・チューンに、ハイトーンボイスが絡むというロックヴォーカリストとしての魅力もありながら、彼の唄う切ないバラードもまた、それに並び絶大な人気を博している。yasuの唄声からは、人に快適感やヒーリング効果を与えると主張される1/fゆらぎが現れるというから、それも納得である。『Recreation 4』では、徳永英明の「輝きながら」やTHE BLUE HEARTSの「青空」、尾崎豊の「Forget-me-not 」で、その“1/fゆらぎ”を感じることが出来る。
また、今回初の試みであったという「M」で聴かせてくれているアカペラも必聴。すべてのパートを自身1人で唄い、声を重ねていったこの1曲は、人間の声に宿るパワーと奥深さを、改めて感じさてくれることだろう。
「僕を通して、このカヴァーアルバムを通して、昔の曲を今の時代に伝え残したいっていう思いはあるかな。唄は、ずっと誰かが唄い続けることによって生き続けていくものでもあると思うから———」
そんなyasuの願いから始まった“Recreation”企画。
yasu自身、この企画を通して、唄い手として、ロックヴォーカリストとして、Acid Black Cherryとして、何を伝えていくべきか、そして自身の個性とは何処であるのかに向き合えたことだろう。この先、ロックヴォーカリストとしての彼の振り幅がどのように広がっていくことになるのか、実に楽しみである。活動開始から10周年を迎える2017年、多くの活躍を期待したい。
Writer 武市尚子